あるべき場所 (新潮文庫)

あるべき場所 (新潮文庫)

1話目の「空室なし」は原田宗典らしいトホホな大学生の話。短編全部このような世界で通されるのかと思っていたが、いい意味でそんな期待を裏切られた。1話目、2話目までは作者が得意とする憎めないトロいやつらの話で、幸せとはいえないけど決して不幸でないシアワセのかけらを味わえて読んでいるこちらがうれしくなる。一方、3話目は作者の観察眼の鋭さによって「あるべき場所」にない「もの」についての考察から、物語が広がっていく。そして、4話目ではそれまでのほのぼのした世界を打ち破る。1話目や2話目のさみしさとは違う、もっと恐ろしいものが漂い始める。この作者の陽と影を見られる作品だった。